キヤノン 110EDについて


110ED

写真では良く判らないが、ペンタックスオート110と並べて大柄である。

☆ジャンク度☆
レンズにゴミあり
撮影可能




110ED 110ED
いまや絶滅の危機に瀕している110判フィルム。本カメラの生命線だ。

110ED
レンズフレーム部に糸くずのようなゴミが・・・。


 過日、突然「距離計連動式110判カメラが欲しい」という熱病にかかってしまった。いまや絶滅の奇異に瀕した110判フィルムを使用する高級カメラを味わうには最後のチャンスなのではと言う妄想に駆られたのだ。既に110判一眼レフであるペンタックスオート110所有(2台)しているので、興味が距離計連動機へ向うのは自然の生業であり止める事はできないであろう。<お気の毒
 そもそも110判フィルムとは何であろうか?実のところ、このフィルムフォーマットが全盛であった時代と言うのを拙僧は知らない。コダックが110判フィルムを世に送り出した1972年、拙僧も人生と言う名の困難に一歩を踏み出した。ならば幼少の頃の記憶が残っていそうな物だが、拙僧宅はコンパクトカメラのピッカリコニカと本気一眼レフのニコンFEがあれば用は足りる一般家庭に育ったのでその存在に触れる事は無かった。或いは、拙僧宅が比較的裕福であれば子供用のポケットカメラでも買い与えてくれたのであろうが、残念な事に幼少の記憶は暴力と罵倒、そして貧乏で占められてしまったのだ。
 そんな拙僧が110判カメラと出合ったのは父親が死蔵してた小さなカメラを救出した事が発端だった。それはペンタックスオート110であったのだ。その吊りめがねみたいなフィルムがコンビニ等で簡単に手に入らない事はすぐに判ったのだが、なにしろ小さい事が幸いして初期のツーリングのお供として実用した。当時はカメラ人間としての覚醒前ではあったが、理屈は知らなくても一眼レフの格好をしたカメラはカッコよくもあったのである。今から考えるとあのオート110はニューオート110だったのであるが、その事は重要では無い。それが110判というフィルムを使用するカメラであり、また110判フィルムを使用した簡素なカメラの一群がポケットカメラと称されていたのを知るまでにはしばしの時間を要する事になった。
 改めて方々のコンテンツを参考にさせてもらうと、どうも110判というフィルムフォーマットはコンシューマ層、平たく言うと135判フィルムの装填にも煩わしさを感じる方々をターゲットに開発されたようだ。「小さな画面サイズで135判にも匹敵する画質を得られる」と言った主旨の記事を掲載したコンテンツも拝見したが、それはいくらなんでも持ち上げすぎだと拙僧は思うな。実際には「サービスサイズのプリントで見られる程度」の画質を計算した結果、この小さなフォーマットが決定したと言う事らしい。
 恐らく、コダックとしても110判フィルムを使用する高級カメラなんて言うものは想定していなかったのではと拙僧は思うな。それはディスクカメラや126判カメラと同様にである。実際に世に出た「ポケットカメラ」と称する110判カメラの殆どはプラスチックで出来たおもちゃに毛が生えたような代物であった。でも、コンパクトカメラの開拓者を自認するローライと、繊細で緻密なカラクリ細工を得意とする日本企業はそれらと一線を隔した高級110判カメラを世に送り出す事となったのである。
 本カメラ「キヤノン110ED」は、そう言った背景から登場した高級110判カメラの頂点の一つである。
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 薀蓄はその辺にして本カメラを手にとってみよう。本カメラをユニークでかつ高級機として存在せしめる機能は、まず「距離計連動」である。拙僧の知る限りは本カメラとその後継機を除いて距離計連動110判カメラは聞いた事が無い。オペラグラスの様にファインダーを覗きこむと、距離計連動カメラと言うより距離計が主でレンズとフィルムを追足した「フィルム付き距離計」なのではないかと思ってしまう。また、「絞り優先AE」の搭載も注目しなければならない。被写界深度の深くなる小さなフィルムフォーマットでは有るが開放値F2という大口径レンズの搭載にて、それなりにアウトフォーカスを生かした撮影が可能である。ある意味、プログラムAEのみのペンタックスオート110より作画的な撮影が可能だと言えるかもしれない。
 本カメラは他例に反せずネットオークションで落札した物である。落札価格は適当な物であったが、迂闊にも出展者が札幌在住である事に全く気付かなかった。宅配業者を利用すれば送料だけで落札価格の倍のお支払いとなってしまう。勿論、出展者には迷わず不定形郵便で送ってもらう旨を伝えた。先方も承知しているのか、しっかりと梱包材で包まれブツはやって来た。
 電池を入れるとバッテリーチェックのLEDは点灯したものの、レンズカバーを開放してもシャッターロックが解除されないのである。これには一瞬「掴んでしまったか!!」っと冷たいものが背中を流れたが、スライドしたレンズカバーに打印された○印とボディ上に打印された○印が少しでもずれているとシャッターロックが解除されないのであった。シャッターの動作は問題がないと思われたが、レンズ部フレームの縁に糸くずか木の繊維の様なゴミが侵入していることに気付いた。「分解」という嫌な単語が頭に浮かんだが、レンズの受光面には影響が無さそうなのでとりあえず見なかった事にした。本カメラは外装を見る限り殆どネジが見当たらないので、分解は遣り甲斐のある作業になるだろう。
 ボディ上部に目を移すと、青と赤のインジケータを持った2つのスライドレバーを見る事ができる。m表記と距離イメージ(人物、山)から赤のインジケータを持ったスイッチが焦点をコントロールするものであることは容易に想像できた。しかし、一方の青いインジケータを持ったスイッチに表記されたイメージ(晴れ、曇り、○)の意味するところがなかなか頭に浮かばない。晴れと曇りでプログラムAEを切り替えるのかとも思ったが、イマイチしっくりこない。実は拙僧は本カメラが絞り優先AEカメラだという事を知らなかったのだ。判ってしまえば簡単で、それぞれの絞りにて適当な露出(シャッタースピード)を得ている事を確認できた。
 もう一つの「サプライズ」は本カメラがISO100にしか対応していない事であった。キヤノンカメラミュージアムによれば後裔機の110ED20でようやくISO400のフィルムに対応していると言うのだ。うひょー、マジ?勿論、フジフィルムがISO100のカラーネガを発売しているので構わないと言えば構わないのだが、拙僧は期限切れで安くなったフィルムを購入するので受け入れ幅は広い方が良い。もっとも、近所のキタムラではフジのフィルムしか置いてないから構わないかしらん。
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 ファインダーを覗くとブライトフレームが樽型に歪んで見えるんだけれども拙僧にとってはどうでもいいことである。距離計イメージは輪郭のハッキリした正方形で見易く、スライドレバーによる焦点調節も慣れると具合のいいものでフォーカシングはやり易い。構造上シャッターブレが発生しやすいのでホールディングには注意が必要である。
 巻き上げスイッチは少しコツが要るようで、レリーズボタンを押下してもシャッターがチャージしていない事が何度かあった。スライドするスイッチの1ストロークでフィルムの巻き上げとシャッターチャージを行うのであるが、フィルム巻き上げに比べてシャッターチャージはストロークの奥の方で行っているらしく、スイッチは奥までしっかりとスライドする必要がある。シャッターチャージが完了したら巻き上げスイッチはロックされるので確認した方が良い。
 本カメラをミニチュアカメラとしてみるとペンタックスオート110に比べてかなり大柄なのでイマイチ魅力の欠けるカメラとなってしまうだろう。でも、現在のモダンなデジカメや銀塩カメラとは違った操作感覚を楽しむ価値があるのではと拙僧は思うな。何より絞りを調節した作画的な撮影が可能なのだから。
 惜しまれるのは、現在のラボ側の110判のプリント体制は非常に不安定であるらしく、満足な結果を得るのが難しい事である。今回もプリント時の都合としか思えないピンぼけプリントが多数見られたし、発色も不満足な物であった。以前、ミノックスのカラーネガを同時プリントした際には満足なカラーのプリントを得る事ができたので、110判フィルムの限界とは思えない。
 メーカーやラボ側からすれば、既に「慈善事業」と化しているのが110判かもしれないが、何とかならない物だろうか・・・。

 では、作例を見て頂きたい。

(了:2005/11/09)

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