中古カメラ病もこじれてくると様々な症状を併発するらしい。ここでお金のある方はライカやローライ、ハッシー方面に傾倒なさるのだけれども、拙僧のような赤貧者はおいそれと昇天できない。いや、本当は使いもしないカメラを全部処分すれば程度のそれなりのIICあたりなら入手可能なのだけれど、使いもしないカメラこそ魅力に感じるのだ。
いやいや、それはホンの冗談で実際にはネットオークションで売りさばく度量が無いだけである。そこで違う病気に移行するのだ。とはいえ、拙僧も無駄に生きてきたからミノックス病やハーフサイズ病は既にやったし、ソビエトカメラ病も既に小康状態なのである。ところが過日、閃いてしまった。それは単玉ボックスカメラ病だ。これは本来、ズミクロンやプラナー、ローデンシュトクに食傷気味といった比較的高度な撮影を経た方々が踏み入る闇なのだけれども、その投下資産の少なさからこれしかないと思ってしまったのだ。それに、単玉ボックスカメラというのは、それは構造が簡素だから自由で思い切ったデザインのものが多いのである。そしてそのデザインもどこかしら懐かしいオールドアメリカンなのである。これは当然で、当時、貴重で高価なフィルムを湯水のごとく写るんですに毛が生えたような簡素カメラに投じる事ができたのは自由圏の覇者たるアメリカだけだったからだな。
そういう意味で本カメラは都合の良いカメラである。安いしデザインが垢抜けている。それは馬車馬時代のカンテラ、或いはプラットホームで合図を送る駅員さんのランプにしか見えない。凡そ時代を超えたデザインセンスである。実際に本カメラが製造されたのは1940年代後半から1960代初期だと言うから、あながち馬車が走っていたとも考えられるな。形体は2眼レフに見えるけどフォーカスは固定の固定焦点(パンフォーカス)カメラ。下のレンズが撮影用レンズで上のレンズはフレーミング用のビューレンズ。上から覗き込むとビューレンズから入った光ががミラーで反射されてコンデンサレンズで強調されて明るく見える。このタイプのファインダーは明るいのが取り柄なのだけれども、ちゃんと真上から見ないととはっきり見えないしかなりコツのいるファインダーである。脇から覗き込むのを防止したATMの可視角みたいなものだ。もっとも、真上から被写体を見るという事は水平線に傾きが無いように撮るという意味で重要なのかもしれないな。何れにしろ、この井戸の底を覗き込むようなファインダーで正確にフレーミングするのは不可能に近い。あくまでも被写体を真ん中に持っていくためのファインダーで日の丸構造がどうのこうのという方には向かないカメラである。
シャッターは1速かバルブ、絞り固定。なのでフィルムのラチュードに頼るしかない。見た感じではシャッタースピードは1/25位、絞りはF16位でISO100のフィルムでもちょっとオーバーになってしまう。当時は恐らくISO50以下のフィルムで撮影していたのだと思う。何せ半世紀前に設計されたカメラである。まあ、モノクロネガならラチュードの範囲だろうと気を休めてフィルムを詰めて撮影するのだ。おおっと、ここで注意である。本カメラは620判という既に生産が終了してしまった規格のフィルムを使用するのだ。中古カメラ民族として活動を始めると、いかにコダックが勝手に乱出したフィルムフォーマットを自分の都合で葬り去ったか腹が立つけど、この辺は詳しい方々のコンテンツに譲りたい。とりあえず、本ページでは620判は120判と同じフォーマットだけれども、スプールが細軸になっていてそのままでは使用できず、620判のスプールに巻きなおす必要があるとだけ記する。大抵のボックスカメラは620判のフィルムを使用し、また、カメラ内にスプールが1本有っても、実際には巻き上げ側のスプールが必要なのでネットオークション等でこの種のカメラを拾う際にはスプールが付いているか、必ず確認する必要がある。大抵の場合は1本は入っているから、最低でも2個の620判カメラを拾う必要がある。
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実際に撮影してみよう。コンデンサーレンズ越しのファインダーは見やすい物ではない。この種のファインダーは近づくと見えなくなるのである程度離して覗く必要がある。また垂直に見る必要が有り、角度が変わるとたちまち被写体がファインダー内から消えてしまう。ちょっと万華鏡を覗いている感じだ。ホールディングの固定を要求されるので手振れを抑える効果があるかもしれないな。このファインダーで正確なフレーミングは不可能に近いから被写体が欠けないように日の丸構図になってしまう。いやいや、この時代から被写体は真ん中に写すのが王道なのであって、やれ水平線が首を貫通するだとか、頭から電信柱が生えているとかが気になる方は本カメラのようなプリミティブなカメラには近づかない方がいいだろう。なにせ簡素なカメラだからフレーム内に被写体が入った事を確認したら、後はレリーズボタンを押下するしかない。
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本カメラの魅力はその独特なデザインで写真を撮るよりは飾ったり弄ったりする方が多いだろう。まあ、写真も取れる1950年代のオブジェという感じだな。
ホークアイとは北米人に好まれそうなネーミングだが、そもそもホークアイというカメラを発売している会社があって、それをコダックの光学部門が買収してホークアイという名を継承したそうだ。それが1900年代初頭というから我が国のカメラ史とはベクトルが違うな。ホークアイと名づけられたカメラは本カメラの他にも複数存在する。本カメラはブローニーフィルム(620判)を使用するホークアイという訳だ。
では、
撮影結果を見て頂きたい。
(了:2007/11/28)